与那国島にはスナックが数軒、バーが1軒ある。
島での夜遊びと言えば、居酒屋で食事をした後はスナックかバーで飲むくらいしかやることがない。
泡盛を飲みながらおしゃべりやカラオケを楽しみたいならスナック、ゆっくりとカクテルを嗜みたいのであればバーと使い分けると良いだろう。
「はて、日本最果ての島のスナックはどんな感じなんだろう?」
そんな疑問を抱いていた僕の与那国島滞在中の最大の目的の1つがスナックに訪れることだった。
祖納(そない)集落の田原川(たばるがわ)沿いにスナックやバーが立ち並ぶ与那国島最大の繁華街がある。
川沿いのネオン街からは、まるで京都の木屋町を思わせる妖しい夜の香りが漂ってくる。
日本最西端の島のスナックに潜入すべく、東京の友人B(べー)ちゃんと連れ立って、繁華街に立ち並ぶ4軒の内の1軒であるスナック「来夢来人(ライムライト)」にやって来た。
「来夢来人」は僕が離島巡りの際に愛読していた雑誌「沖縄・離島情報2017-2018」に掲載されていたので気になっていたお店だ。
小さな離島のスナックと言えば、おばちゃん(またはおばあちゃん)が経営していて、お客さんも島の常連さんばかり、一歩店内に足を踏み入れると終わりのない酒宴に巻き込まれる・・・というよそ者にはハードルが高い印象があった。
しかし、この「来夢来人」は雑誌でアルバイトを募集していたので、それならば内地出身の若いお姉さんが働いているのではないかと思い、話を聞いてみたいとこのお店にやって来た。
前置きが長くなってしまったが、午後8時の開店と同時に店内に入って2人でカウンター席に座り、与那国島の泡盛「どなん」のハーフボトルを注文。
店内は結構広く、カウンター席に加えていくつかのボックス席がある。
「来夢来人」の料金システムは時間制ではなく、居酒屋やバーと同じで飲んだだけ支払うシステムで、しかも泡盛の料金はボトルで数千円とかなり良心的だ。
居酒屋やバーとの違いと言えば、女性スタッフにドリンクをご馳走する必要があるくらいだが、話し相手になってくれるし、優しいママの方針なのかガツガツしておらず、しかもお酒を飲まなかったので一杯ご馳走するだけで済んだ。
スタッフは東京(多分)に住んでいたことがあるらしい与那国島出身のママと内地出身の30代の女性が2人。
カウンター越しに歳の近い女性スタッフと主に旅のことについて話しながら、ママが作ってくれるおつまみを食べながら泡盛をロックでいただく。
沖縄の離島で飲んでいると、リゾートバイトで各地を転々としている20~30代の女性によく出会う。
いつまでも雇ってくれるわけでもなく将来も見えないだろうし、それが東京や大阪などの大都市で働くことに比べて幸せな生き方かどうかは分からないのだが、仕事をしながら旅をしている僕も、雇用形態が違うだけで結局は似たような人間である。
なんだか想像とは異なる静かで落ち着いた雰囲気の中、美味しいおつまみに泡盛、そしておしゃべりを楽しんでいるとみるみるうちに与那国島の夜は更けていった。
2~3時間いても料金は数千円くらいで、また来たいと思わせてくれる居心地の良いお店だったので、翌日、与那国島最終日にも再び「来夢来人」を訪れた。
前日の夜と同じくハーフボトルの泡盛をロックでいただく。
午後8時の開店直後の早い時間に行くと、誰もいないカウンター席に座ってゆっくりとおしゃべりを楽しむことができるのでおすすめだ。
この日は料理好きのママが特別にソーメンを出してくれた。
ヤシガニミソのつゆにつけていただくソーメンは絶品だった。
気が付けばお客さんの増えた店内ではカラオケ大会が始まっていた。お客さんは島の人と観光客が半々くらいだろうか。
「恋するフォーチュンクッキー」を踊りながら歌うおじさん、もう平成も終わろうかというのに、小さな離島でまるで時が止まったかのように昭和の楽曲を歌うおばさんたちで店内は盛り上がっていた。
そんな盛り上がりの中、僕はなぜか飲み屋に行くといつもリクエストされるX Japanを歌うことになった。
大好きなラルクを歌う友人のB(べー)ちゃんからの「置きにいっている」という言葉を横耳に、僕はX Japanの「Say Anything」を歌っていた。
どうやら上手すぎたのか、歌い終わるとお客さんはゾロゾロと帰っているし、あまり盛り上がらなかったな。
静けさだけが心を刺して聞こえる胸の吐息。何とか言ってよSay Anything。
みんなで歌っていると楽しくなってきたので泡盛をロックでガンガンに飲んでいると、いつの間にかハーフボトルが2本、追加で頼んだグラスの泡盛もなくなっていた。
気が付けば夜の1時を回っている。宮古島ならいざ知らず、小さな離島でこんな遅くまで起きているのは久しぶりだ。
「また来てね。約束よ」
別れ際、そう口にしたママに見送られ、僕たちは「来夢来人」を後にした。
与那国島の真っ暗な夜道をなんとかホテルまで歩いて戻り、ベッドに倒れ込むように眠ったのだが、30度の泡盛をロックでガンガンに飲み過ぎたせいか、翌日の朝はまともに起き上がることができなかった。
石垣島に戻らなければならないのに、足はガクガク、目はジンジンしてまともに歩けない。
ここで初めて、僕は沖縄の離島の人たちが泡盛のボトルを水割りで飲む理由を知ることになった。
まぁ、なんとか無事に帰ることはできたのだが、与那国島では荒々しい風景はもちろん、スナックで飲んだ思い出が印象深い。
1ヶ月くらいのんびりと仕事しながら滞在して、夜はよなよなスナックに通うのも良いなぁ・・・なんて思ったりもしてしまう。
与那国島に来たら是非スナック「来夢来人」に来て島の夜を楽しんで欲しい。
ただし、くれぐれも泡盛のボトルをロックで飲むときは要注意だ。
おわり
店舗情報
営業時間:20:00~2:00
住所と地図:沖縄県八重山郡与那国町字与那国3
※上記は変更の可能性がありますので予めご了承ください。