「わお、こいつはプリスティーン(原始的)だぜ」
人っ子一人いない与那国島のワイルドな風景の中を歩きながら、僕は思わずそうつぶやいた。
与那国島は日本最西端に位置する人口約1,700人の国境の島で、島の周囲は約27km、島の道路を一周すると約25kmになるらしい。
起伏が激しいので徒歩や自転車で回るのには向いていない(と言うか歩いている人は見ない)のだが、祖納(そない)集落にあるホテルに到着後、ひとまず島の東側に位置する展望台がある東崎(あがりざき)まで歩いてみることにした。
祖納集落を出発し、祖納港から東に向かって島の一周道路を歩き出す。
お墓が立ち並ぶエリアを通り過ぎると、後は何もない原始的な風景の中に一本の道路が伸びているだけだ。
他の八重山諸島の離島とは一味違う、どこか荒々しい与那国島の風景に最初は興奮していたのだが、いくら歩いても代わり映えしない風景に次第に飽きてしまった。
与那国島には集落が3つあるが、最大の集落である祖納集落以外は島の西側に位置しており、祖納集落以東の島の東側には何もない素朴な風景が広がっている。
たまにすれ違う車や原付バイクに乗った観光客らしき人たちを除いては、人影は見当たらない。
僕は退屈を紛らわそうと、加齢によってたるみ始めた涙袋を引き締めるため、覚えたての眼輪筋トレーニングをしながら超が付くほど田舎の与那国島の道を歩いて行った。
険しい表情で目をバチバチしながら歩いていると、ようやく東崎の風車に近づいてきた。
周辺の東牧場では放牧されている牛や馬が草を食んでいる。なんだか日本とは思えない光景だ。
ここからさらに道を進んで行くと、与那国島の東端に位置する東崎展望台にたどり着いた。
東崎展望台には馬が放牧されている牧草地が広がり、先端にある灯台までは乾いた馬の糞を避けながら歩いて行かなければならない。雨の日だったら嫌だなこれ。
強風が吹き付ける東崎の断崖絶壁からは与那国島の荒々しい海を一望できる。
東崎灯台のふもとには数頭の馬がたむろしていた。
日本在来種の馬である与那国馬(よなぐにうま)は小柄で大人しい性格のようだが、都会育ちの僕は「これ突進してきたら死ぬんじゃないの?」などと思いながら恐る恐る与那国馬に近づいていった。
東崎を後にし、今度は島の南側の道路を西に進んで立神岩(たちがみいわ)を目指すことにした。