夕日を見た後、港まで戻る。港では、釣りをしている地元の人たちが何人かいた。
港には、古い車が置いてある。一昨年来たときからあるが、まともに走るのだろうか?去年とは違う場所にあるのでたまに乗っているのかもしれない。大神島の乗り物にはナンバープレートが付いていない。島全体が私有地らしく、ナンバープレートは要らないようだ。聞いた話だと、土地の名義人はみんな故人だそうだ。
空がだんだんと暗くなってきて、釣りをしている人たちも家に帰り始める。僕も食堂へ戻ることにした。
そう言えば、西側外周道路を歩いていたときにふと気が付いたことだが、去年道路沿いにいた2匹のヤギがいなくなっていた。
気になったので後から島の人に聞いてみると、年老いたヤギは自ら命を絶ったので刺身にして食べられ、残された子ヤギは可哀想なので宮古島に送られたそうだ。こちらではヤギを食べる習慣があるので、どのみち食べられる運命かもしれないが、それにしてもヤギが自ら命を絶ったりするのだろうか・・・。
食堂に戻る頃には、空もすっかり暗くなっていた。日中は人が集まる港にいることが多いが、遊び相手がいなくなったゆりちゃんも食堂のテラス席で丸くなっていた。少し寒そうだ。日中は30度近くになり真夏の陽気だった大神島も、夜になると風が強くなって肌寒く感じる。
ゆりちゃんは、時折透き通った目でこちらを見つめてくる。まるでこちらの心を読もうとしているかのようだ。いや、本当はゆりちゃんの中にも神様が宿っていて、全てお見通しなのかもしれない。
食堂の中では、食堂のスタッフと地元の人たちが4人で食事をしている。特に盛り上がっていると言うわけでもなく、テレビを見ながら黙々と食事をしているようだ。夕食時の他人の家に上がり込むような感じで、なんだか入りづらい。
しかし、テラス席に座っているとだんだんと寒くなってきたので意を決して中に入ることにした。一言二言会話を交わし、4人が座っている隣のテーブル席に座る。晩ご飯は宿泊料金には含まれておらず、別途食堂のメニューから注文する。
せっかくなので大神島の特産品であるタコの燻製を使ったカーキたこ丼を注文することにした。おぷゆう食堂の名物でここでしか食べられないらしい。タコの燻製にタマネギとシンプルな盛り付けだ。タレが絶妙で美味しい。付け合わせの料理はアーサ汁、サラダ、もずく。かなりボリュームがあるが、どれも美味しく、体に優しい味付けだ。オリオンビールと共にいただく。
食事をしている最中、特に隣の人たちと話をすることはなかった。みんなテレビを見ながら食事をし、たまに独り言のようにコメントをしている。
沖縄の離島だと、「よく来なすった」「これも食べなさい」などと言って歓迎され、輪の中に入って食事をする姿を思い浮かべる人もいるかもしれないが、大神島のような小さな島だとそれもないようだ。そもそも、島の人たちはみんな家族のようなもので、食堂もここ最近までなかったんだからよそ者と一緒に食事をすること自体慣れていないのかもしれない。でも、大神島の人の話を聞いてみたいという気持ちは若干あるものの、僕にとっては一人で食事をする方が気が楽だ。年も大きく離れていて環境も全く違う離島の人たちに色々と話しかけられても、どうやって答えたら良いのかもよく分からない。
隣で食事をしていた人たちが1人、2人と席を立ち帰って行った。まだ午後7時過ぎだったと思うが、あまり長居しても食堂の人たちに悪そうだ。明日の朝食の時間を決めて、ペットボトルのお茶を一本買って部屋に戻ることにした。
しかし、部屋に戻ってもやることがなく、あたりはもう真っ暗だったが、夜の大神島を散策してみることにした。外に出ると、いつの間にかゆりちゃんもいなくなっている。
東側外周道路を歩いてみる。スーパームーンが近づいているせいか、この日は月が綺麗だった。それでも道路を歩いていると目の前は真っ暗だ。島の静寂の中、海からは波の音がはっきりと聞こえてくる。若干恐怖を覚えたが、東側外周道路から港へと戻り今度は西側外周道路も歩いてみる。こちらの方が、道路沿いに木々が多く、時折聞こえる木々のガサガサとした音にビクッとする。島には人間以外の動物は犬と猫しかいないのは分かっているが、それでも怖い。想像力が恐怖感を増幅させる。まさか、暗闇の中亡くなったヤギの亡霊が現れたりしないだろうな。
結局、西側外周道路を途中まで行ったところで怖くなり引き返してきた。月明かりのせいか星はあまり見ることが出来なかった。遠見台からは星が綺麗に見えるだろうが、暗闇の中集落を抜けて遠見台を登る勇気はなかった。来年は懐中電灯を持ってこよう。
部屋に戻ってきたが、部屋にはテレビもなく、他に何も持ってきていないのでスマホをいじるくらいしかやることがない。こんなところでも、ドコモのスマホは問題なく使える。しかし、こんな小さな離島にいると、やることがなくてもスマホをいじるのがなんだか馬鹿らしく思えてくる。外の世界で何が起こっていても関係ない、そんな気持ちにさせられるのだ。
宮古島の市街地であれば、まだこれから飲みに行く時間だ。眠りにつくことが出来ず、布団に横になりぼーっとしていた。余計なものなど何もない、こんな離島の夜もたまには良いかもしれない。
神の島・大神島での宿泊体験 Vol.6~干潮で景色が一変する朝の大神島~に続く