また最近流行りのスタンフォードの翻訳本か・・・と思っていたのだが、この本の著者は日本人で、睡眠研究の最前線を行くスタンフォード大学の医学部精神科教授、睡眠生体リズム研究所(SCN ラボ)所長らしい。睡眠研究の第一人者と言える人物だ。
年々仕事や勉強などやることが増え、また難易度も増してくるにつれて、脳のパフォーマンスの重要性を認識するようになってきた。そして脳のパフォーマンスに最も影響を与えるものが睡眠だ。
僕は脳科学に関する本はよく読むのだが、睡眠にフォーカスして書かれた本は以前から読もうと思っていたものの、なかなかその機会が訪れず、今回何か面白そうな本はないかとAmazonの人気ランキングを見ていたところ本書が目に留まったので購入してみることにした。
日本人の平均睡眠時間は短く、慢性的な睡眠不足になり睡眠負債が蓄積している人も多い。睡眠負債が蓄積すると、週末の寝だめでは解消されず、長期間に渡る長時間の睡眠が必要になるようだ。リボ払いの返済のようなものだろうか。
時間を最大限に活用するために、ナポレオンのように短時間睡眠を・・・と忙しい人であれば誰もが一度は思うかもしれないが、この本によるとどうやら短時間睡眠は遺伝によるものらしい。人によって必要な睡眠時間は個人差があり、1日あたり7~8時間の睡眠時間が必要な人が4時間しか眠らないと、いつか病気になってしまう。
僕の平均睡眠時間は7~8時間で、それ以下だと脳のパフォーマンスが低下し、返って効率が悪くなるので、よほどのことが無い限り最低でも1日7時間は寝るようにしている。サラリーマンではない僕は睡眠時間を十分に確保することは出来るので、一番の問題は睡眠の質を高めることだ。
睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠が交互にやって来るのはよく知られたことであるが、本書によると、眠りに入ってから最初に来る約90分のノンレム睡眠が質の高い睡眠を確保する上では最も重要らしい。最初のノンレム睡眠の質が低いと、長時間眠ったところで日中十分なパフォーマンスは発揮できない。
睡眠と覚醒は表裏一体のものなので、睡眠(特に最初の90分)の質を高くするためには、日中の覚醒が重要になってくる。具体的には、朝起きて日光の光を浴びる、よく噛んで食べる、運動をする・・・といった、脳科学ではお馴染みの行動だ。
もちろん、仮眠の効果についても書かれている。30分未満の昼寝をする人は、昼寝の習慣がない人に比べて、認知症発症率が約7分の1らしい。30分~1時間程度であれば約半分だ。しかし、1時間以上昼寝をする人は、逆に発症率が2倍になるらしい。仮眠に関しても寝過ぎというのは良くないようだ。
僕も午後に眠たくなったときはパフォーマンスが落ちるので、昼寝をすることが多いが、30分未満の昼寝(本書では20分程度を推奨)というのはなかなか難しい。仮眠の直後は頭がボーッとしてしまうので、夜の睡眠の質が高くないと、ついつい1時間以上寝てしまうこともある。その結果、夜寝づらくなってしまい、悪循環に陥ってしまう。理想としては、「夜の7時間程度の質の高い睡眠+午後の30分未満の仮眠」を目指したいところだ。
アメリカ在住が長い著者らしく、科学的データに基づいて論理的に書かれている。脳科学が好きで、脳内物質や神経伝達物質という言葉を聞くと知的好奇心が刺激される僕にとっては楽しく読むことが出来た。
人間の脳は宇宙と同じで、まだまだ不明な点が多い。少しでも脳の仕組みを知り、睡眠の質を高めることによって充実した人生を送りたいものだ。