女木島(めぎじま)は、香川県高松市の市街地からフェリーで20分のところにある瀬戸内海に浮かぶ小さな島だ。
鬼が住んでいたという伝説があることから鬼ヶ島とも呼ばれているらしい。
高松駅近くのフェリー乗り場から、なんだか小さな島に行くには不釣り合いの巨大なめおん号に乗って、波のない穏やかな瀬戸内海を進むとほどなくして女木島の港に到着した。
港に近代的な建物があるのを除いては、沖縄の小さな離島と変わらない印象である。
港近くの集落にある食堂で腹ごしらえをした後、女木島を徒歩で巡ってみることにした。
女木島は周囲約9kmなので徒歩でも十分に回ることができそうだが、親切な食堂のおばちゃんによると、「歩いて回ったら病気になってしまうわー」とのこと。
集落を抜けたところには大きなビーチがあり、9月でまだまだ真夏の陽気ということもあってか海水浴客で賑わっている。
どうやら、女木島のビーチは高松に住む人たちの海水浴場として機能しているらしい。
ビーチ沿いに伸びている外周道路を北に向かって歩く。
今回、記憶にないくらい久しぶりに瀬戸内海の離島にやってきたのだが、高松市周辺にある瀬戸内の海は期待していたほど綺麗ではなかった。
そりゃ大阪湾や神戸の海に比べると綺麗かもしれないが、沖縄の海に比べると随分見劣りする印象である。
それでも、女木島の海は高松の市街地に近いにもかかわらず割と透明度が高くて、海水浴には良さそうだ(市街地から離れれば離れるほど海が綺麗というものでもないらしい)。
この日は最高気温が34度の真夏日で、8月の大阪の殺人的な暑さに比べるといくらかはマシだが、とは言っても日陰のない離島の道を歩くのは辛い。
狩猟採集をしていた時代からのヒトとしての本能なのか離島に来ると無性に歩きたくなるのだが、汗だくになる度にいつも決まって後悔する。
冷房の効いた事務所で書類の作成でもしている方がよほど楽かもしれない上にお金ももらえるのに、なぜこのような苦行をしているのだろうか。
道路は舗装されているので歩きやすくはあるのだが、日陰は少なくアップダウンがあるので体力を消耗する。
島の外周道路から島中心部の山にある洞窟を目指して汗だくになりながら歩いていたところ、身体が水分を異常に欲していることに気付く。
10km程度なら余裕だろうと高を括っていたのだが、真夏の離島の暑さを舐めていたようで、集落で飲み物を買っておくべきであった。
人とは滅多にすれ違わないし、こんなところで熱中症で倒れたら誰かに発見されるまでに息絶えているのではなかろうか。
そんな不安に襲われながら山を登っていると、ようやく洞窟がある山頂付近に到達した。
洞窟がある周辺は観光地化されていて自動販売機もあるので、500mlの水を購入して、ほとんど一気飲みして身体を休める。
一息ついたところで、せっかくなので洞窟に入ってみることにした。
洞窟の受付のおじさんも愛想が良いのだが、香川県の人は今のところ総じて印象が良く、瀬戸内海のように穏やかな県民性なのか、大阪などの都会のように街中でなぜか怒っているおじさんなどを見かけることはほとんどない。
この鬼が住んでいたらしき大洞窟が発見されたことから女木島は鬼ヶ島と呼ばれるようになったようであるが、鬼ヶ島に興味がない身としては、洞窟の中は夏でも14度とひんやりしていて涼むにはもってこいの場である。
身体が冷えたところで、洞窟の上にある展望台に上ってみる。
展望台からは、瀬戸内海の島々や高松の市街地を望むことができる。
展望台から山を下りて集落に戻った後、帰りのフェリーまではまだまだ時間があったので、フェリーの出発時刻までビーチ沿いにある海の家でビールを飲むことにした。
女木島のビーチは賑やかな海水浴客にジェットボート、そしてどこか気合いが入った海の家のスタッフと、典型的な夏の海水浴場といったイメージである。
ひとけのない静かな海が好きな人間としてはやや抵抗感があるのだが、海の家があってビールが飲めるのも海水浴客がいてこそなのを考えると少々騒がしかったところで文句も言えない。
身体を動かして汗をかいた後に、瀬戸内海、そして瀬戸内海の向こうに見える市街地を眺めながら飲むビールは各別である。
女木島は日帰りで見て回れる大きさだし、島を散策して洞窟を見て、海を眺めながらのんびりするだけでも十分に楽しめる島だった。
今回は時間の都合で隣の男木島(おぎじま)までは行けなかったのだが、また近いうちに高松に戻ってくることを誓って、フェリーに乗り込み女木島を後にした。