アフターコロナで読んだ本まとめ⑲

東本願寺とこけし

はじめに

司法試験予備試験の願書を提出する時期になった。

今年に入ってからは家でのお酒をほとんど断ってペースアップして勉強しているのだが、やはり予備試験の範囲は膨大で、今年は初受験ということもあって自信は全くと言っていいほどない。

もちろん合格するつもりでできる限りのことはやるつもりだが、仮に落ちるにしても今年は最低でも短答式は通過して、論文式を受けてある程度の感覚を掴み、来年の合格に向けて弾みをつけたいところである。

ところで、僕より少し年上でほぼ同時期に司法書士になった友人がいるのだが、元々弁護士志望だった彼は法科大学院を修了してから司法試験に三振し、その後司法書士試験に転向してから7回目の受験で合格し今は独立開業している。

どうやら弁護士に未練があるのか、僕が予備試験に挑戦する旨を伝えたときはやる気満々だったのだが、仕事が忙しくなってきたこともあり勉強を全くしておらず、結局受験するのはやめたようである。

中途半端な覚悟ではクリアできない試験だろうし彼の気持ちもよく分かるのだが、受験勉強は孤独な戦いでもあり、同志がいないのはやや寂しくも感じる。

受けるも人生、受けないも人生。

僕は予備試験の勉強が面白くてしょうがないし(もちろん、辛い瞬間もたくさんあるのだが)、現時点では他の何を差し置いてもやりたいことなので撤退は考えられない。

人生なんて儚いものなんだから、やりたいことに挑戦し、会いたい人に会い、言いたいことを言い、後悔のない人生を生きたいと思う。

東本願寺とこけし

東本願寺とこけし

『博士の愛した数式』小川洋子


出典:amazon.co.jp

交通事故の影響で80分しか記憶が持たず、義姉の敷地の離れでひっそりと暮らす数学者である博士と、家政婦として雇われた女性、そして平らな頭から博士により「ルート」と名付けられた家政婦の子どもとの、ほのぼのとした人間関係の物語。

舞台は日本の地方なんだろうけれど、読んでいると何だかイギリスの田舎を舞台にしたヒューマンドラマでも観ているような気分にさせられた。

特に大きな出来事が起こるというわけでもなく(博士にとっては一大事だろうが)、数学や野球の(少しマニアックな)知識を交えながら淡々と進行していく日常が描かれるが、それでもつい引き込まれて読んでしまうのは著者の作家としての能力の高さだろうか。

第1回本屋大賞受賞作品だけあって、読んで損はない一冊。

『あなたはここにいなくとも』町田そのこ


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今もっともおすすめしたい作家である巨匠・町田そのこの最新作である、出会いと別れをテーマにした短編集。

いやー、やっぱりそのこさんの本は良いわ。

数年間に1回しか新作を発表しないどこかの大御所と違って頻繁に最新作を発表してくれるのも良いし、内容もM上H樹の全盛期の頃と比べても全然遜色ない。

ベストセラーになった『52ヘルツのクジラたち』を読んだ後は、その繊細な感情描写から細身のどこか神経質そうな外観の女性を想像したのだが、そのこさんの写真を見て美人だけれど近所の気さくな大阪のおばちゃんみたいな外見にもビックリしたわ。

本短編集でも相変わらずゲスな男は登場するけれど、これまでの作品とはどこか違う、読んでいて宮本輝を彷彿とさせる純文学作品への昇華を感じさせる一冊。

町田そのこファンはもちろん純文学が好きな方は是非。

あれ?村上春樹の新作長編が来月6年ぶりに発売されるの?

翻訳者は好きだし英語版は必ず読むようにしているんだけど、日本語版はどうしようかなぁ。

『患者が知らない開業医の本音』松永正訓


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小児外科医で大学病院に勤務していた著者だが、解離性脳動脈瘤になったのをきっかけに当直があり過酷な大学病院での勤務を諦め、40歳を過ぎて200万円しかない貯金を元手に開業医を目指すことになる。

本書では、大学教授を頂点とする大学病院内での勤務、研究職を視野に入れた医師の転職活動、開業するための土地探しやリース契約、医師会への加入、そして開業してからの日々の患者とのやりとりなど、著者の医師人生を通じて開業医(特に小児科医)の実体がよく分かる本となっている。

しかし、著者は医師としての業務に加えて研究活動、教育や執筆活動などを精力的にこなすものの、(それが働き過ぎが原因によるものかは分からないが)解離性脳動脈瘤だけではなく膀胱癌にもなっており、いくら稼ぎが良くても健康を台無しにするのであれば何が幸せか分からなくなってしまうな。

でも、著者が医療や患者に対する「誠実さ」を説くように、医師なんてのは本当に好きでないと続けられない職業ではなかろうか。

文章は読みやすいし、国立大卒で医師をやりながら本を次々に出版する人というのはやはり優秀であることが分かる一冊。