コロナ禍で読んだ本まとめ⑥

読書

はじめに

先日、世界遺産を紹介するテレビ番組で地中海の島国であるマルタ共和国を特集していた。

以前は美しい風景を紹介する旅番組を好んで観ていたものの、コロナ禍が始まってからは、「行きたくても行けない」虚しい気持ちの方が勝ってしまい、意識的に旅番組は避けるようになっていた。

地中海の青に世界遺産の街並みと、上空から見るマルタ共和国はあまりにも美しく、かつて自由な時代に訪れた時の思い出が蘇り、立ちすくみながら画面を食い入るように見つめ、感動してつい涙を流してしまった(おっさんは涙もろい)。

マルタ共和国の首都バレッタの街並み

マルタ共和国の首都バレッタの街並み

それはまるで、監獄や強制収容所から外界の風景を眺めているような感覚だった。

早くコロナが収まって欲しい・・・と願うばかりである。

コロナ禍で読んだ本のまとめも第6弾になってしまった。

貧困や孤独、自分の力ではどうしようもない環境から社会的弱者に陥ってしまった人たちの物語を読んで比較からどこか安心感を覚える人間の本質的な醜さに嫌悪感を抱きつつも、それと同時に法律を学ぶものとしてはこのような人たちの人権をどのように守ることができるのかと自らの無力さを痛感すると共に思いを致す日々である。

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2021年5月9日

『First Person Singular: Stories』Haruki Murakami


出典:amazon.co.jp

村上春樹の短編集『一人称単数』の英語版(洋書版)で、翻訳はPhilip Gabrielが担当している。

村上春樹の英語版の翻訳者といえばPhilip GabrielとJay Rubinが多く、どちらも読みやすいのだが個人的にはJay Rubinの英訳の方が好みである。

実は、僕は村上春樹の本は日本語版よりも英語版の方が好きで、日本語では読んだことがない本も多い。

20代の頃、東京の狭いワンルームアパートで生活しながら翻訳会社を設立する準備をしていたとき、英語を一から勉強し直そうと近隣の図書館で村上春樹の英語版の本を片っ端から借りていたことを思い出す。

村上春樹の洋書は(特に日本人にとっては)読みやすくかつ面白いので、村上春樹ファンでなくとも英語を勉強中の方には是非おすすめしたい。

本短編集は村上春樹の他の作品に比べて取り立てて面白くはないのだが、読了後は不思議な感覚が残る相変わらずの村上ワールドとなっている。

温泉旅館で働いている話す猿の物語が一番印象に残っているかな。

村上春樹ももう70代だけど、次の長編はまだかなぁ。

『Men Without Women: Stories』Haruki Murakami


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村上春樹の短編集『女のいない男たち』の英語版で、翻訳はPhilip GabrielとTed Goossenが担当。最近Jay Rubin見ないな。

相変わらずsexなんていう単語をよく目にするものの、タイトル通り男女関係に関する物語を集めた本作は、村上春樹の真骨頂とも言え、上記の『一人称単数』よりも読み応えがある。

それにしても、洋書のペーパーバックの質感は何故こんなにも心地良いのだろう。これだけは、電子書籍で代替することはできないなぁ。

『在日ウイグル人が明かす ウイグル・ジェノサイド ―東トルキスタンの真実』ムカイダイス


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本書がウイグル人権問題について書かれた他書と決定的に違うのは、新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)の最大都市ウルムチ出身で、現在は日本に住むウイグル人によって書かれたものであるという点だ。

本書では様々な民族と言語が行き交う国際都市であるウルムチの情景がまるで目に浮かぶように細かく描写されており、ウイグルの歴史だけでなく文学や詩についても紹介されている。

中でも興味を引いたのはウイグル人と戦前の日本との関係で、ウイグルやモンゴルの独立を支援して共産主義国家と戦おうとした日本に対して、今でも親日感情を抱いているウイグル人が多いことが分かる。

ウイグル人弾圧について描かれたマンガ『命がけの証言』同様、証言に基づく強制収容所のおぞましい実態も書かれており、文章でウイグル人権問題について理解する本としては最適の一冊となっている。

まだまだ親日家が多く国際社会で評価されているのだから、一刻も早く日本政府は他国と連携してウイグル人権問題を解決に導いて欲しいと願う。

「あの時、日本が来てくれていれば、東トルキスタンは独立していた」

――本書P70

『非正規介護職員ヨボヨボ日記』真山剛


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歳を取ってからそれほど社会的地位が高くないと思われる職に就くおじさん(おじいさん?)たちによる、日々の仕事や人間関係、そして人生について書かれた成熟さと悲哀を感じさせる日記シリーズの最新作。

本作では介護施設で働く著者と認知症などを患った入居者たちとのやり取りや著者による人間観察がとにかく面白く、他人の下の世話をする過酷な介護職の実情がユーモアたっぷりに紹介されている。

本シリーズの他の作品と同様、相変わらず著者のパワフルさと文章の巧みさに感心させられると共に、反面教師として、「将来お金に困って嫌な仕事に就くことがないように頑張らねば」という気持ちにもさせられる。

『女子大生風俗嬢 性とコロナ貧困の告白』中村淳彦


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東京貧困女子』の著者による風俗に落ちる女子大生たちへのインタビュー集。

本書に登場する女子大生たちは、贅沢がしたいわけではなく、大学に通いたいけれども親が子どもの教育に無関心だったり収入が少なかったりで学費や生活費が払えないため、仕方がなく風俗を選択している(普通のバイトではとてもじゃないが足りない)。

コロナ禍も重なり団塊ジュニア世代など大学生の親世代の貧困が進んでいる中、女子大生が夜の街で働くのはもはや当たり前のことになりつつあるようだ。

本書には風俗嬢以外にもパパ活をする女子大生、体を売る男子学生や女子大生の母親なども登場し、もはや先進国とは思えないカオスな状態となっている。

一方で数千万円の学費がかかる私立の医大に進学しても生活に困らない人もいれば、その一方で数百万円の学費が払えず風俗で働く人もいる。

子どもは自分の力で環境を選択できないわけであるから、勉強をしたい子どもが経済的理由から進学や夢を諦めることがないよう、政府にはなんとかして欲しいところである。

『未婚中年ひとりぼっち社会』能勢桂介、小倉敏彦


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アラフォーの独身男としては胸に突き刺さるタイトルである。

同年代の話かと思いきや、中期氷河期世代の僕よりさらに上の世代の人たちの話で、バブル世代~団塊ジュニア世代の40代後半~50代の男たちについて、インタビューを通して仕事、趣味や恋愛事情など中年男性たちの生態について調べ、独身である理由が分析されている。

僕が結婚しない(結婚できない?)理由としては、「男は仕事」という昭和的な価値観が残っている(これは、共働きが増えたとはいえ日本社会全体における問題だと思う)にもかかわらず仕事に未だ不安定な面もあり結婚するとお金がかかりそうなので二の足を踏んでしまうこと、容姿や性格など女性に対する理想の高さに対して現実とのギャップがあること、一人でもやりたいことや趣味に没頭しており幸せなこと、婚活サービスを利用したところで選択肢が多すぎて混乱する上に妥協もできず決められないことなど、世代は異なるにもかかわらず本書に登場する人物と共通するところも多くて納得しながら読み進めることができた。

今後ますます中年の独身男性は増えていくだろうし、僕も(何らかの妥協をしなければ結婚するのは極めて難しいにもかかわらず)妥協をするなら一生独身で良いくらいの気持ちになっていたのだが、久しぶりに夏目漱石の本でも読みながら恋愛について考えてみるとするか。