【魔の水曜日】宮古島にクルーズ船で来る中国人が嫌いだ。受け入れを止めないなら移住なんてしないよ

ワールドドリーム号。夜になると光ります

「何が”I LOVE MIYAKO”だ。ふざけやがって」

マンションのバルコニーから、平良(ひらら)港に停泊している大型クルーズ船の電光掲示板に表示された文字を見ながら僕はこう悪態をついた。

中国人観光客を乗せた大型クルーズ船。素朴な平良港にはなんだか不釣り合いだ

中国人観光客を乗せた大型クルーズ船。素朴な平良港にはなんだか不釣り合いだ

宮古島へのクルーズ船の寄港数は年々増えていて、2015年には年間13回だったのが、2016年は86回、2017年は130回、2018年は143回、2019年は147回と年々増加している。

クルーズ船は中国からやって来るものが多いが、中には台湾からやって来るものもある。

特に「魔の水曜日」として島民に恐れられる水曜日には、乗客定員数3,000人以上の大型クルーズ船である「ワールドドリーム号(総トン数約15万トン)」がやって来ることが多い。

ワールドドリーム号。夜になると光ります

ワールドドリーム号。夜になると光ります

平良港の沖に停泊した豪華客船からは、宮古島に上陸する中国人を乗せたボートが行き来している。

人口約55,000人の宮古島に数千人の中国人観光客が一度にやって来るのだ。これがカオスを生み出すことは想像に難くない。

ある水曜日の夕暮れ時、僕はランニングをしようと平良港の前を通ってパイナガマビーチ、宮古サンセットビーチ、そして伊良部大橋へと向かって走っていた。

平良港前の歩道には日本人の姿はほとんどなく中国人観光客ばかりが歩いていて(そもそも地元の人はほとんど歩かない場所だ)、数人で歩道を占拠しているので走りづらく、車道に出る羽目になってしまった。

たどり着いたパイナガマビーチは中国人観光客で埋め尽くされていて、爆音で音楽を鳴らしている人もいて唖然とさせられた。

僕は静かなビーチを楽しむためにわざわざ観光客が少なくなる11月に宮古島を訪れているというのに、これでは台無しである。

中国人のおばちゃんのセクシーポーズを見るためにビーチに来ているわけではない。

普段は静かな市民憩いの場であるパイナガマビーチだが、過去には3,000人もの中国人で埋め尽くされたこともあるらしい(バーのマスター談)。これは一体、何の上陸作戦ですか。

胸騒ぎを抑えきれず逃げるようにパイナガマビーチを後にし、宮古サンセットビーチへと向かった。

平良港から少し離れているせいか、中国人観光客がいないことに安堵して海を眺めながら歩いていると、日本人観光客の初老の男性がすれ違いざまに話しかけてきた。

「ここ、海が綺麗で良いところだねぇ」

11月の静かな宮古島の海を堪能して欲しいのに、島には中国人観光客ばかりで僕はなんだか申し訳ない気持ちになった。

「10年前は海ももっと綺麗で、中国人観光客なんていなかったんですよ」

別に宮古島の人でもないのに、こう言いたい衝動に駆られた。

気が付けば僕は、中国人観光客と出会いたくないばかりに、外出する際には前もって宮古島市のウェブサイトにアップされているクルーズ船の入港予定をチェックするようになっていた。

僕は毎年宮古島に2週間~1ヶ月ほど滞在しているのだが、ここ2~3年は夜に飲み歩くのがメインで、これまで中国人観光客の存在をあまり認識していなかったのだ。

幸いなことに、クルーズ船でやって来る中国人観光客は日帰りで、宮古島の市街地で一夜を過ごすことはないらしい。

バーのマスターから聞いた話によると、過去に中国人観光客を泊めたホテルがあるのだが、ウォシュレットを外して持ち帰ったことがあり、ホテルから中国人観光客を泊めるなとクレームが入ったらしい。

これが真実か都市伝説かどうかは分からないのだが、妙に納得できるところが怖い。

ここで断っておくが、個人的な好き嫌いは除いて、僕は別に中国人観光客を差別しているわけではない。

宮古島に来る団体観光客を乗せたクルーズ船が嫌いなのであって、その多くが中国人観光客で占められているというだけの話だ。

仮にクルーズ船に乗っているのが大阪のおばちゃんであっても同様にウザいと思うだろう。

ただ、特に旅行によく行く人であれば中国人観光客のウザさは分かるはずだ。

それにしても、このクルーズ船を受け入れることによって、一体誰が得をしていると言うのだろうか?

確かに、中国人観光客が利用する観光バスやタクシー、スーパーやドラッグストア、飲食店などは儲かるかもしれない。

しかし、ほとんどの島民にしてみると、移動の足であるタクシーが空いていなかったり、スーパーに行っても日用品が売り切れていたりとデメリットの方が大きいように思われる。

飲食店にしろ、そもそも宮古島の人気飲食店なんて中国人なんていなくても食事時は常に満席である。

おまけに、リゾート開発が進んでいる宮古島ではアパートが工事関係者で埋められ、家賃も高騰する一方だ。

月給が十数万円程度の人が多い宮古島で、家賃が東京並みか下手をすればそれ以上なんて馬鹿げた話である。

クルーズ船誘致による利益を享受しているのは、大多数の島民ではなくクルーズ船の受け入れを決めた一部の役人ではないのか。

まさか、その儲けた金で夜な夜な宮古島のキャバクラやガールズバーを訪れ、リゾートバイトの女子と「あっひゃっひゃー」なんて騒いで浮かれているのではあるまいな。うらやまけしからん。

実際、宮古島の人たちから中国人観光客に対して好意的な話は聞かない。

以前見た宮古島のクルーズ船問題を特集していたテレビ番組で、島の人がこんなことを言っていたのが印象に残っている。

「こうやって島は乗っ取られていくんだろうなぁ」

これが島の人たちの正直な気持ちであるのなら、何故誰も住民運動をしないのだろう。それとも、僕が知らないだけで実際にはやっているのだろうか?

自衛隊の誘致に反対するよりも、クルーズ船の誘致に反対する方がよほど国益にかなっているように思う。

もし僕が宮古島の住民であれば間違いなく抗議をするし、最悪、「快適な環境を享受する権利」が侵害されているとして、市や国に対して訴訟を起こすかもしれない。

平良港では現在、大型クルーズ船を泊めることができる新しい岸壁の工事が進んでいる。

これからも、宮古島に来るクルーズ船の数は増え続けることだろう。下手をすれば毎日が「魔の水曜日」になる可能性だってある。

僕が初めて訪れた沖縄が宮古島で、その海の美しさに魅せられ思い出の地でもある島だ。

ここ数年は毎年訪れていて将来は宮古島にマンションでも買って移住しようかと考えていたが、爆増する中国人観光客を見てそんな気はすっかり失せてしまった。

だって、静かな環境を享受したくて宮古島に移住するのに、スーパーやビーチを訪れる度に溢れかえった中国人観光客にイライラさせられるのであれば移住する意味なんてないからだ。

都会から素朴な離島を求めて宮古島を訪れる日本人観光客も、このような状況が続けば僕と同じようにだんだんと宮古島を避けるようになるだろう。

今の宮古島は、国際観光地化を進めるあまり、島民や日本人観光客の気持ちをないがしろにしている印象さえ受ける。

「僕が好きだったあの頃の宮古島には戻らない」

伊良部大橋の向こうに沈む夕日を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

宮古島の海に沈む夕日

宮古島の海に沈む夕日

大好きだった宮古島に対する失望感を覚え、色褪せる宮古ブルーと同じく、宮古島で飲むお酒もなんだか美味しく感じられなくなってきた。

もう宮古島に毎年来るのは止めようかと思い、宮古島を出発する日にマンションのバルコニーからクルーズ船が去った後の平良港を眺めると、そこには綺麗な虹がかかっていた。

平良港にかかる虹

平良港にかかる虹

それはまるで、宮古島が「まだ見捨てないで。美しい自然は必ず蘇るから」と僕に対して訴えかけているかのようだった。

これから先、宮古島がどうなっていくのか分からないが、長期滞在ではなくともできる限り毎年訪れて、島の将来を見届けたいと思う。

再見。