『多動力』堀江貴文:レビュー

この本の著者であるホリエモンこと堀江貴文氏は、僕が大学生の頃に時代の寵児ともてはやされていた。20代でマザーズに上場、球団買収計画やニッポン放送買収計画、衆議院議員総選挙出馬などでメディアの注目を集めた。しかしその後、ライブドア事件で逮捕・収監される。

当時デイトレードをやっていた僕は、ライブドア事件でライブドアの株価が暴落したことが強く印象に残っている。しかし、当時の僕はビジネスにさほど興味がないこともあってか、ライブドア自体のことはよく知らず、世間を騒がせているホリエモンのことはただただ頭の切れる凄い人だなぁ、という印象しかなかった。

ホリエモンが逮捕された後は、メディアの報道もあって「金の亡者」というイメージの方が強く、逮捕後はもう終わった人だと思っていた。

ここ最近はテレビをほとんど見ないこともあって、ホリエモンが何をしているのか全く知らなかったのだが、1~2年ほど前に、それまでは何となく避けてきた彼が書いた本を購入して読んでみた。

そのとき、それまでに彼に抱いていたイメージは良い意味で覆った。とにかく頭の切れる人、というイメージは変わらないのだが、仕事に対して凄く真面目な人だなぁ、と感じたのだ。

彼の本に書いていることは簡単には真似出来そうもないにしても、刺激を受けたり、仕事のヒントになったりする内容が多いのである。それ以来、僕は頻繁に出版される彼の本を定期的に購入して読んでいる。

本書『多動力』であるが、インターネットの発達によってフラットな世界になり、産業間の壁がなくなる結果、個人に求められるスキルも単一的なものではなく複合的なものになってきており、次から次に新しいこと(好きなこと)に挑戦していくスキルを「多動力」という言葉で表現している。

寿司職人の長年の修行が無意味かどうかはともかく、僕も「多動力」いう言葉には共感する。これからの時代、1つのスキルを身に付けただけではよほど突き抜けなければ生き残っていくことは難しく、著者は複数の肩書きを持つことを推奨している。この著者のように多数の大きなプロジェクトを同時に進行していくほどのエネルギーはないが、僕自身、肩書きとしては翻訳者、経営者、ブロガー(Webクリエイター)などがあり、近いうちに法律家にもなるだろうし、作家になる夢もある。投資家としても活動していく予定だ。

一見無関係に思えるスキルでも、実は相互に関連性があり、1つのスキルを身に付けていくことで別のスキルもアップしていく。そして、複合的なスキルを掛け合わせていくことでオンリーワンの存在になっていく。

異なる分野の勉強に思えても、突き詰めていくとほとんどが文字と数字の組合せだと思えるようになってくる。例えば、プログラミングは言語であるし、法律も言葉の勉強であり、その本質は英語の勉強となんら変わりない。

多動力はこれからの時代に必要な能力だろうが、同時に多くの物事に取り組むためには莫大なエネルギーが必要になってくるだろうし、この著者の言うとおり「好きなこと」でないと、とてもじゃないが続けていけないだろう。

本書の内容で一番心に残った、というか役に立ったのは、(この著者の他の書籍でも書かれているが)「電話をかけてくる人間とは仕事をするな」という言葉だ。

僕は元々電話が好きではない。電話で人と話す(特に知らない人)のが苦手ということもあるが、何よりも集中力が途切れるのが嫌いだからだ。電話が鳴ると、仕事や勉強をしているときの集中力がプツッと途切れてしまう。

「電話」は、自分一人でビジネスを始めるときの一番の悩みのタネであった。基本的にはメールで仕事を受け付けているのだが、「電話に出ない会社は信用出来ない」という思い込みがあるからか、電話が鳴ると渋々と出てしまう。単なる営業電話も多く、結果かなりのストレスが溜まるのだ。

ウェブサイトで新規顧客はメールやフォームでしか受け付けていないと記載されているにもかかわらず、電話を掛けてくる人は多い(特に高年層)。電話をもらっても結局原稿はメールで送ってもらうので2度手間になるし、仕事の効率が大幅に落ちるので、この著者の言葉が後押しとなったこともあって、もう電話にはほとんど出なくなった。

このような人たちは次からも必ず電話を掛けてくるので、最初から付き合わないことにした。今はIP電話があるが、電話を待っていること自体がストレスになるし、仕事をする時間と場所も制限される。そもそも、メールを見ることが出来ないときは電話にも出られない。文句を言う人もいるだろうが、文句があるなら他の人に依頼すれば良いだけだ。営業の自由は憲法上も保障されている。

もちろん、普段は電話を掛けてこない親戚や仲の良い友達、お世話になっている人たちが突然電話を掛けてくれば何かあったんだろうと思って出ることもあるが、そんなことは年に数回もない。

電話の話が長くなってしまったが、これが僕が本書から学んだ一番有益な内容だ。本書の内容は以前の僕には難しく感じたかもしれないが、僕自身成長したのか、今では腑に落ちることも多い。僕は本を読むときは、ただの1つでも役に立つ内容があれば良いと思っている。それを実践していくことで人生は変わっていく。本書に書いている内容を少しでも実践して、インターネット時代を生き抜き、また迫り来るAI時代に備えるために多動力を身に付けよう。